経済教室NO.3 行政コストの「見える化」
                                 
Q
 行政のムダ削減がなかなか進展していないようですが。

A 近年、行政改革や行政評価などが積極的に実施されてきました。しかし、個々の政策や事業の是非はさておき、ムダとは「サービスの水準を落とさずに削減できる歳出」と定義しても、まだまだ不十分という印象はぬぐえません。

Q どこに原因があるのですか。

A ムダを削るには、事業の内容や業務のプロセスを分析し、どこに、どのような費用がどれだけかかっているのか、を明確にすることから始めるのが当然です。これを行政コストの「見える化」と言います。
 事業にかかるコストを把握する原価計算は、民間企業では当たり前ですが、行政では全く行われてきませんでした。それが、ムダ削減や業務の改善を通じた、行政の効果的運営を大きく阻害しているのです。そのため、「歳出一律カット」などと言う粗雑な手法が横行することになります。

Q
 個別の事業や業務コストは、予算書には書いていないのですか。

A 残念ながら予算書を読んでも、これらの金額は全く分かりません。
 そこに書かれているのは、個々の事業ではなく、「総務費 ― 総務管理費 ― 一般管理費」や「土木費 ― 道路橋りょう費 ― 道路橋りょう維持費」のように、集計された金額でしかありません。

Q しかし、行政の仕事の単位は事業のはずです。

A その通りです。そこで最近では、予算をわかりやすくするために、事業ごとに内容を説明する資料を作成し、住民に配布する自治体も増えてきました。有名なものに、北海道ニセコ町の予算説明書「もっと知りたいことしの仕事」があります。事業ごとに、使われる経費の内訳が、人件費を含めて書かれており、財源の出所(町の負担、国・道からの補助金など)、事業の箇所も示しています。

Q これで、正しいコストが把握できるようになるのですか。

A
 こうした事業別予算説明書の作成は、住民に説明責任を果たす上で、一歩前進と評価できます。しかし、そこで示されているコストは、必ずしも適切な原価計算に基づいたものではありません。
 事業や業務のコスト把握には、応分の人件費や建物・設備などの減価償却費を含める必要がありますし、事業に直接かかった費用だけでなく、内部管理業務などの間接費も含めた「フルコスト」で計算しなければならないからです。

Q どうすればフルコストの「見える化」ができますか。

A
 発生主義に基づいた事業別の行政コストを明確化することが必要です。その際、正確な計算に有効なのが、「活動基準原価計算(Activity-Based Costing=ABC)」という管理会計の手法です。1980年代後半に米国で提唱され、民間企業で用いられている原価計算で、事業や業務を、活動単位に分解してそれぞれのコストを算出する手法です。

Q 具体例を示してくれますか。

A
 住民票などの証明交付を例に挙げます。業務は〈受付→検索→印刷→交付〉という活動のフロー(流れ)表すことができます。その上で、各活動にかかる職員の活動従事量を基準に、人件費や償却費などのコストを、それぞれに分配していくのです。ABCを使えば、証明交付業務全体にかかる事業費の内訳だけでなく、各活動の正確なコスト構造や内訳を明確にすることができます。

Q データーに基づく改善が可能になりますね。

A そうです。例えば住民票交付1件当たりの費用が計算できますし、各区役所(支所)の窓口業務のコスト比較も可能になります。これを基に、行政評価を行ったり、事業・業務の見直し、効率化に取り組むことができるのです。
 米国では多くの公的機関がABCを導入しています。わが国では、導入はまだ少数ですが成果を上げている自治体もあり、今後の広がりが期待されます。




公明新聞記事(H23. 3. 7)より転載