経済教室NO.6  再構築求められる所得税
                                    
Q 参院選で菅首相が、「消費税率10%」に言及し、国民から大きな反発が起こりました。

A わが国は大幅な税収不足が続いており、今後も社会保障費を中心に歳出増が見込まれます。しかし負担増を言う前に、徹底したムダの削減や歳出構造改革に取り組むのが先決です。現行の税制に関しても、国民が公平に負担を分かち合う制度になっているかを、まず問うべきです。消費税だけを取り出すことは、税制全体の議論をゆがめることになりかねません。

Q 現行税制は、どのような問題を抱えているのですか。

A 日本の経済・社会構造や、わが国を取り巻く環境は、大きく変わっています。グローバル化のなかで格差拡大も起きています。しかし、税制はそうした変化に対応した見直しがなされてきませんでした。特に、累進税率(所得が高いほど税率が高くなる仕組み)を持つ所得税には、富裕層から貧困層へと所得を移転し、格差を縮める「所得再分配機能」がありますが、その弱体化が指摘されています。
 格差を測る指標としてジニ係数があります。税や社会保障給付による所得の再分配の前後を比べた調査では、税による格差是正の寄与度が極めて小さいことが分かっています。
 
Q
 近年、所得税収も低迷していると聞きます。

A バブル経済が頂点に達した1991年度には所得税収は、26.7兆円でしたが、それ以降は右肩下がりで減少し、今年度(予算ベース)は12.6兆円とピーク時の半分以下の水準になっています。財源をまかなう「財源調達機能」も同時に低下しているのです。

Q 所得税の財源調達力が落ちている原因は何ですか。

A 所得税の課税ベースが小さいためです。収入があっても、所得控除などにより相当部分が課税の対象から差し引かれ、実際に課税の対象となる所得(課税所得)は、当初の総収入に比べれば、限られた金額になっています。
 戦後のシャウプ改革では、再分配機能を果たす所得税が税制の柱として位置づけられ、所得控除は6項目しかありませんでした。しかしその後は、シャウプ改革の理念とは逆の方向に進み、分離課税が拡大したほか各種の所得控除も増え、今では20項目を超えています。

Q 主要国での所得税の位置づけは?。

A
 国税収入に占める所得税収の割合を比較すると、わが国が32.0%なのに対し、米国(連邦政府)は70.7%と高く、高税率の付加価値税(日本の消費税に相当)を課している国ですら、英国が39.1%、ドイツ37.6%と、日本を上回っています。

Q 所得税改革に必要な視点は何ですか。

A
 公平性を実現できる制度に見直すことです。格差が広がるなかで、所得税に本来期待されている、所得再分配機能を回復させることが重要です。ただ、“過度の平等化”によって日本の経済・社会の活力が失われてはなりません。経済成長を後押しする効率性にも配慮した仕組みが、同時に求められます。

Q
 公平性の確保にはどういう改革が行われるべきですか。

A 有力な選択肢は、現行の所得控除を、税額控除と手当(給付)を組み合わせた「給付つき税額控除」へと改めることです。所得控除は実は、高所得者ほど有利な仕組みです。ただ、これを単に廃止するだけでは、低中所得者も負担増となります。そこで税と社会保険料の負担を一体化したうえで、税額控除あるいは給付を導入すれば、低中所得者の負担を減らすことが可能です。課税ベースも拡大しますので、財源調達力も増すことになります。
 また、公平性の追求にあたっては、世代間の負担の格差も考慮することが課題です。

Q 経済成長と整合的な所得税とは、どういうものでしょう。

A
 注目されているのは、「二元的所得課税」という制度です。まず所得を、賃金や給与などの「勤労所得」と、利子、配当、キャピタルゲイン(株式などの売却益)といった「金融・資本所得」に分け、勤労所得には累進税率を課する一方、金融・資本所得には例えば一律20%という比例税率をかけるという考え方です。
 金融・資本所得は高所得者ほど多いのですが、容易に海外へと流出しますので、経済成長の元手として活用するためには、ある程度の低率課税はやむを得ないとされています。スウェーデンなどの北欧諸国やオランダで成果を上げています。


公明新聞記事(H22. 7. 26)より転載