経済教室NO.15  動き始めたWTO交渉

Q ドーハ・ラウンドとは。

A WTOに加盟する153カ国・地域がモノ・サービスの貿易自由化に向けて共通のルールづくりをめざす交渉のです。01年11月にカタールのドーハで開かれた閣僚会合で交渉が始まったことから、こう呼ばれています。輸入品に課す関税を引き下げたり、輸入規制を削減することで世界の貿易を活性化し、経済発展を促すのが目的です。
 当初、3年程度で合意する見通しでしたが、農業や工業分野で先進国と発展途上国との溝が埋まらず難航。交渉開始から、間もなく8年が経過しますが、最終妥結に至っていません。


Q 特に農業分野での対立が激しいと聞いていますが。

A その通りです。農業交渉では、先進国と途上国、農産物の輸入国と輸出国の間で立場が大きく異なります。例えば、農産物輸入国の日本やスイスなどは、米国の農業補助金の削減や非農産品の関税の削減などを主張していますが、農産物輸出国の米国やブラジルなどは、農産物輸入国に対して関税の撤廃や最低輸入義務量の拡大による市場開放などを強く求めています。
 昨年7月の閣僚会合では、農産物の輸入急増の際に、一時的に関税を引き上げて国内農業への影響を緩和する特別セーフガード(緊急輸入制限)の発動条件をめぐって、米国と中国・インドが激しく対立。合意寸前のところで決裂しました。

Q 妥結へ向けた動きは。

A 米国と激しく対立したインドが、9月初旬にWTOの非公式閣僚会合を主催し、交渉進展に強い意欲を示したことで、妥結への機運が一気に高まっています。
 さらに9月下旬には、米国のピッツバーグで開かれた20カ国・地域(G20)の第3回首脳会合(金融サミット)で、貿易に関して「各国が結束して保護主義に対抗する。ドーハ・ラウンドの10年中の妥結を目指し、次回サミットで交渉の進展を点検する」ことを盛り込んだ首脳声明が採択されました。

Q 妥結まで順調にいきそうですか。

A 急速に経済発展を遂げる中国やインドなど新興国の存在感が強まり、利害の調整は一段と難しさを増しています。
 さらにオバマ米大統領が中国製タイヤに対する特別セーフガードを表明したことから、両国間の貿易摩擦が表面化してきています。交渉全体の波乱要因になるかもしれません。

Q 農業交渉で日本は、どのようなことを主張してきたのですか。

A 農業の多面的機能への配慮や食品安全保障の確保など各国の「多様な農業の共存」を基本理念として、輸出入国間のバランスの取れた貿易ルールの確立や、国内農業の構造改革の推進、途上国の開発への貢献を追求してきました。こうした考えに立って日本政府はこれまで、関税引き下げ幅を例外的に抑えられる重要品目数を全品目のうち「8%以上」と主張。しかし、昨年7月の閣僚会合では「原則4%」とし、低関税の輸入枠を増やせば「最大6%」にできるとの案が示され、日本を除く主要国が大筋合意しています。

Q 交渉がまとまった場合、日本への影響は。

A 打撃を被るのは必死です。現在、日本の農産品は1332品目あります。このうちコメ、小麦、乳製品など155品目(約12%)が重要品目です。特に精米に778%、バターに360%などと高い関税をかけて国内農家を保護しています。仮に昨年の会合で示された案の通り、重要品目数が4〜6%になった場合、53〜80品目しか対象になりません。どの農産品を重要品目の対象から外すのか、厳しい選択を強いられます。

Q 鳩山新政権は交渉にどのような姿勢で臨むのですか。

A 民主党は先の衆院選のマニフェストで、「(WTO)交渉妥結に向けて指導力を発揮するなど、貿易・投資の自由化推進する」ことを打ち出しています。しかし、「農業の国際競争力をどう強化し、市場開放に対処していくか、具体的な政策を示していない」(9月4日付「読売」)のが実情です。早急に交渉方針を明確にすることが求められます。

公明新聞記事(H21. 10. 5)より転載