経済教室NO.15 異常高騰続ける原油価格
                                    
《影響》 
 今年に入り、特に騰勢を強めている原油価格だが、6日のニューヨーク商業取引所(NYMEX)の原油先物相場は、一時1バレル=139.12ドル(米国産標準油種WTIの中心限月7月物)まで上昇、5月22日以来2週間ぶりに取引途中の最高値を更新した。この日の急騰は、イランの核開発をめぐる地政学リスクや雇用統計の悪化を受けた米国経済の先行き懸念の高まりが背景にある。
 1年前のほぼ2倍の水準で推移する価格の高騰を受け、今月に入り、日本でもガソリンの店頭価格を170円台に引き上げる給油所が相次いだ。食料品価格の値上がりなどとも相まって、家計は節約志向を強め、商品への価格転嫁が難しい企業経営などにも影響が表れている。
 総務省が発表した4月の家計調査によると、2人以上の世帯の消費支出は1世帯当たり31万695円と、物価変動の影響を除いた実質で前年同月比2.7%の減少。消費支出全体でみると外食が不振だったほか、洋服の購入費も減少してる。
 個人消費は実質GDP(国内総生産)の約6割を占め、経済に与える影響が大きく、消費が抑制されれば景気後退の懸念すら招きかねない。こうした傾向は日本のみにとどまらず、世界を直撃。2%を物価安定の目安とするユーロ圏でも消費者物価の上昇率は3%を超える水準が続いている。

《背景》
 原油価格高騰の要因は経済成長著しい新興国の需要増だけではあり得ない。
 経済産業省がまとめた平成19年度の「エネルギーに関する年次報告」(白書)では、2007年7〜12月のWTI平均価格が1バレル=90ドルの時点でさえ、3分の1強に当たる30ドル分以上が需要以外の投機資金や地政学リスクによって押し上げられていると試算。原油価格高騰の要因として、世界中から巨額の運用資産が原油市場に流入しているためだと指摘する。
 こうした投機資金流入の背景には、米国のサブプライムローン(信用力の低い人向け高金利型住宅ローン)問題がある。サブプライム問題では、証券化と呼ばれる手法で世界中に薄く広くリスクを分散した結果、各国で株や債券が下落。投機資金は株式や債券市場を回避して、原油や穀物などの商品市場に向かう傾向を強めた。
 主要先進国の上場株式の時価評価総額は、05年時点で約41兆ドル、債券市場は07年6月現在で約53兆ドルに達している。日本円にして、いずれも数千兆円の規模を有する株式、債券市場に対し、原油先物市場の規模は約15兆円と相対的に小さい。このため、株式、債券市場からの資金の流入は、原油価格に大きな影響を及ぼし、商品価格の上昇に拍車を掛ける結果となった。世界的なインフレ傾向の背景には、こうした投機マネーの動きがある。
                                 
《今後》
 米国の商品先物取引委員会は先日、原油取引の監視強化策を発表し、一部の取引に相場操縦の疑いがあることを公表した。原油価格高騰の影響は世界中に広がっており、今後、投機資金に対する監視の動きが強まることは不可避の状況だ。
 日本と米国、中国、インド、韓国の5カ国は7日、青森市でエネルギー相会合を開き、最近の原油高騰に深刻な懸念を表明した上で、省エネ推進などに努めることを確認した共同声明を採択した。
 声明は「現在の価格水準は異常」と強調。世界全体のエネルギー需要の約半分を占める5カ国が連携して対策を講じることで、価格の沈静化を図る構えを示した。
 声明では、原油価格の高騰について「消費国、産油国双方の利益に反し、とりわけ資源の乏しい開発途上国に大きな負担をもたらす」と指摘。産油国には逼迫する原油需給の改善へ、生産拡大のための投資増大を要請。消費国側の対応では、「省エネの大幅な向上や代替エネルギーの促進のための国内政策の抜本的強化」を盛り込んだ。
 また、欧州中央銀国(ECB)のトリシェ総裁は5日、金利据え置きを決めた定例理事会後の記者会見で、来月の利上げを強く示唆。市場関係者に少なからず驚きを与えた。商品市場への投機資金流入を抑える手段としては、金融引き締めは一つの選択肢だが、これまで、ECBはサブプライムローン問題を受けて金融緩和策を採らざるを得ないというジレンマがあった。
 こうした一連の動きは、サブプライム後の世界経済に、一つの潮目の変化をもたらす可能性がある。

公明新聞記事(H20. 6.11)より転載