経済教室NO.11 変わる日本の金融規制
                                   
Q 金融庁が、銀行や証券、保険会社に対する規制・監督の方法を変えるようだが。

A トラブルの未然防止や問題発生時の対処法などに関して、これまでは詳細なルールを法律に書き、順守を求めてきました。しかし今後は、大まかなプリンシプルを示し、細かな点は自主規制ルールに委ねようというものです。金融庁は、「両者のベストミックス(最適な組み合わせ)」によって規制を行うとしています。
 このように、よりよい規制環境を実現するための取り組みを金融庁は、「ベター・レギュレーション(金融規制の質的向上)」と呼び、金融行政の大きな課題と位置付けているのです。

Q 規制・監督手法を大きく転換させる意図は何か。

A わが国の金融・資本市場の国際競争力を強化することです。人口減少社会に突入した日本が、経済成長を維持するためには、従来の得意分野だけでなく、金融や情報産業の発展が不可欠といわれています。
 しかし、東京は「国際金融センター指標」のランキングでは第10位と、世界第2位の経済力に見合った地位にありません。邦銀の収益力の弱さとともに、解決が必要な課題です。そこで重要になるのが、魅力のある金融・資本市場をつくること。その大きな要素が規制環境です。

Q 具体的には?

A
適切な規制・監督により信頼感の高い市場を形成するのと同時に、素早く変化する技術条件に対し柔軟な対応ができることも求められます。金融市場では金融工学を駆使したデリバティブ(金融派生商品)など、複雑な商品が次々登場しています。時間のかかる法整備ではこうした事態に対応できず、利用者保護も後手に回りがちです。
 「ビッグバン」と呼ばれる金融制度改革で、世界の金融センターとなった英国のロンドンに続き、各国とも規制環境の整備に力を入れており、市場間の競争が激化していることは、認識しておく必要があります。

Q 金融の機能が変わってきたことも、金融行政の転換を促しているのではないか。

A 重要な視点です。金融システムの安定、利用者保護、公正・透明な市場形成という金融行政の三つの目的は変わりませんが、新しい金融に合った規制・監督手法が求められているということです。
 わが国の金融行政は以前は「護送船団方式」と呼ばれ、保護色の強いものでした。これは金融の機能が、不足する資金を成長産業へ効率的に配分する時代には有効な仕組みでした。しかし、1980年代に入り資金不足が解消した後も、こうした金融モデルからの脱却に失敗したことが、バブル経済を招くことになりました。
 今日の金融機能として重視されるのは、リスク管理などで、リスクへの対応や質の高いサービス提供には各金融機関に自助努力が求められます。これまで金融行政は、負の処理に追われてきましたが、一方で金融商品取引法など制度の整備も進展し、新たな局面に応じた規制に取り組むことができるようになったわけです。

Q ロンドン市場の活況と規制との関連は。

A 外国為替取引で世界の3割、デリバティブ相対取引では4割を占め、米国を大きく引き離しています。背景には金融規制の緩和があり、特に米国がエンロンなどの会計不正により、金融取引の規制強化に走ったことが、英国市場の魅力を高めたとされます。英国で金融機関の規制・監督を行っているのが金融サービス機構(FSA)で、プリンシプルに基づいた規制で注目されています。わが国が手本としようとしているものです。

Q その中味は。

A FSAのプリンシプルは11項目で構成されます。例えば1番目は、「誠実にビジネスを行うこと」、6番目は「顧客の利益に関心を持ち、公平に扱うこと」を求めて、規制の目的を示しています。こうした動きは世界でも大きな流れになっており、韓国では新政権関係者が、金融規制を米国式から英国式へ転換すべきとの考えを示していますし、米国でも英国モデルを参考にすべきとの声が上っています。

Q 今後、わが国への導入に当たり、どんな課題が考えられるか。

A 法令の条文に基づかない規制のため、業界には、かつてのような「裁量行政」の回復、復活への警戒があります。金融庁と、規制を受ける金融業とが、コミュニケーションを通じてプリンシプルの理念を共有するとともに、相互の信頼感を高めて、よりよい運用を行う努力が必要でしょう。また、プロ向けの市場など、取り組みやすい分野から導入を図る工夫も考えられます。

公明新聞記事(H20. 4.7)より転載