経済教室NO.7  排出権取引 独走するEU
                                   
Q 排出権取引をめぐるEUの動きは。

A EUは2005年1月に域内独自の排出権取引制度(EU―ETS)を導入し、排出権の市場取引を始めました。昨年末には第1期が終了し、今年から第2期が始まっています。(期間は12年までの5年間)。
 第1期の3年間で、EU―ETSの取引量は大きく伸びました。初年度の05年にはCO2換算で3億2000万トンでしたが、06年には3倍強の11億トンとなり、昨年は22億トンを越えました。07年の世界の排出権取引のうち、取引高では約65%を、金額ベースでは約75%のシェアをEUが占めていることになります。

Q EU―ETSの仕組みは。

A 「キャンプ・アンド・トレード」と呼ばれ、企業や施設に排出可能なCO2量を無償で配分(キャップ)し、その権利を取り引き(トレード)する方式です。排出権総量をまず加盟国ごとに割り当て、それぞれの国が対象施設に配分する2段階になっています。
 第1期では、EU全体として、基準となる05年の排出量実績よりも8.3%超える上限枠を割り当てました。対象となる業種は電力や製鉄、セメントなどのエネルギーを多く消費する5業種で、約1万1500社が対象となり、目標が未達成の場合には、CO2 1トンにつき、40ユーロの罰金が科せられました。

Q 第1期の結果はどう評価できるか。

A
EU―ETSの価格は、短期間で大幅な変動を経験しました。市場発足直後の価格はトン当たり6ユーロ程度でしたが上昇を続け、06年4月には30ユーロを超えます。しかしその後、データーが公表され、割り当て数量が排出実績を超えていたことが判明したため、価格は大きく下落することになりました。
 その原因としては、第1期で課せられた排出上限枠が緩やかすぎたことなどが指摘されています。こうした反省に立って、第2期では排出上限枠がより厳しく設定されたため、08年物の価格は今のところ堅調な動きを続けています。
 一方、初期排出量の割り当てを過去実績に基づいて決めることから、省エネ対応の遅れた施設ほど多くの枠を確保できることや、国際競争力を維持するために、輸出産業の負担をより軽くし、電力など国際競争と関係の薄い産業に過重な負荷をかけることなど課題も指摘されています。

Q ところで、EUを軸にした排出権取引市場の世界的な統合が進むという見方もあるね。

A 取引高でも金額も圧倒的なシェアを持つEUは、国際的な主導権を握っています。今後、排出権取引市場の拡大をにらんでグローバルな連携が活発化することは確実ですし、すでにさまざまな動きが表れています。
 EU―ETSには、欧州のEU加盟国のノルウェーやアイスランドなど3カ国がすでに参加を決めています。また、米国のカリフォルニア州など9つの州とカナダの2つの州が、EUとの間で「国際炭素取引協定」を結び、取引市場の整備に乗り出しています。
 京都議定書を批准していない米国ですが、多くの州が排出権取引市場の導入を検討し、連邦議会上院委員会で昨年末に排出権取引を定めた法案が可決されるなど、排出権取引市場の導入が相次ぐことが予想されます。
 このような動きをみても、今後はEUを中心にして、排出権取引市場の世界的な統合が進展する見込みが濃厚です。

Q 排出権取引制度の導入をめぐり、わが国の動きは鈍いが。

A わが国は、京都議定書で約束した1990年比6%の削減分のうち、1.6%を排出権取引などでまかなう計画です。しかし、排出権取引制度の導入をめぐっては、排出上限枠の割り当てに反対している経済界や経済産業省と、積極的な環境省が対立しており、昨年12月にまとめられた報告書は両輪併記となりました。
 EU市場が価格決定力を持つ現状では相場が高騰すれば、わが国は大きな国民負担を強いられます。5年間で1兆2000億円の負担という試算もあります。
 ポスト京都議定書の枠組みを話し合う洞爺湖サミットの議長国として、わが国は積極的な役割を果たす責務があります。このため、日本経団連の御手洗冨士夫会長がEU型制度の導入に理解を示すなど、ここにきて変化の兆しも見られます。
                                
Q 今後の課題は?

A 具体的な制度設計に当たっては、先行するEUなどの経験を生かすことができます。個別施策に排出権を配分するキャップ・アンド・トレードは、手続きにコストがかかります。わが国は、エネルギーは大部分を輸入していますので、輸入段階で排出上限枠を割り当てれば、コストが少なくてすむという主張もあり、1つの案として注目されます。ただ、負担を下流部門に転嫁できるかという問題もあります。複数の有力案について、利点や短所を検討しながら、わが国に適合した制度づくりが急がれます。


公明新聞記事(H20. 3. 3)より転載