経済教室NO.22国内企業の敵対的買収

Q 最近、わが国でも企業買収をめぐる動きが活発なようだが。


A 自社に不足している経営資源の獲得や事業の再構築などを行なう手段として、国内企業による敵対的買収が目立っています。
 経済産業省によれば、2005年の企業買収の件数は、前年比23%増の2725件と過去最高を記録。06年上半期では、すでに1409件にも上っており、昨年を上回るペースになっています。
 このうち、敵対的買収が占める割合は1〜2割程度に過ぎませんが、日本では稀だった国内企業による敵対的買収が活発化していることは、日本でのM&Aが本格化したことを示しています。

Q
敵対的買収とは。

A
買収先の経営陣の同意がある友好的な企業買収とは異なり、買収先の経営陣の同意がないにもかかわらず、株式市場や既存の株主から株式を買い集め、企業買収を行うことをいいます。
 買収側は、買収先企業の経営権を支配できる議決権を取得するため、発行株式総数の過半数、もしくは、合併や役員解任、営業譲渡などの特別決議を拒否できる3分の1超の取得をめざします。
 日本ではこれまで、敵対的買収を「乗っ取り」として否定する風潮がありましたが、一方で「効率的な企業運営を促す」という側面もあります。

Q
どのような手法で買収するのか。

A
TOB(株式公開買い付け)制度を活用することが一般的です。
 TOBとは、買収先の株主に対して、目的や買い取り価格、取得予定株数、買い付け期間など公を示し、それに応じた株主から市場外で株式を買い取る手法です。市場内で大量の株式を買い進めれば、その間に株価が上昇し、買収費用が増大します。
 このため、買収側は市場外での株式取得を選択しますが、日本の証券取引法では、上場企業が発行する株式の3分の1超を取得する場合、原則として、TOBを実施するよう義務付けています。買収先の株主に広く買収の条件を伝えなければ、情報を知り得た一部の株主だけが有利な条件で取引ができるようになり、市場の公平性が損なわれる恐れがあるためです。

Q
具体的な事例を紹介してほしい。

A
最近は、国内大手企業が同一業界で行う事実上初の敵対的買収として、業界首位の王子製紙による北越製紙への買収が注目を集めています。
 現在の製紙業界を取り巻く環境は厳しく、外国からの輸入紙の増加や原油高などによる原材料費の高騰が企業収益を大きく圧迫しています。
 こうしたことから、王子製紙は激化する国際競争での「生き残り」をかけ、生産能力の高い北越製紙の設備を取り込むことなどを目的に先月3日、北越製紙に経営統合を提案。しかし、自主独立を掲げる北越製紙がこれを拒否したことから今月2日、TOBの実施に踏み切りました。

Q 北越側の対応は。

A
北越製紙は先月19日、新株予約権(あらかじめ決められた価格で株式を取得できる権利)の割当によって買収者の持ち株比率を下げる買収防衛策を導入。また、北越製紙からの増資を受け、筆頭株主となった三菱商事は、北越製紙との友好的な関係をめざすことを念頭に、王子製紙のTOBに応じない意向を示しました。
 さらに、業界2位の日本製紙も王子製紙のTOBの阻止に向け、北越株を買い進めていることから、王子製紙のTOBの成立は難しいとの見方が大勢を占めています。

Q
国内で敵対的買収が加速する要因は。

A
まず、挙げられるのが企業同士の株式持ち合いが解消されつつあることです。
 株式の持ち合いは、これまで企業の結束強化や経営の安定化などを目的に、日本企業の慣行として長く続いていました。
 しかし、バブル経済崩壊後は、株価下落による含み損を回避しようと持ち合いの解消が進み、株式が流動化したことから、敵対的買収者が株式を取得しやすくなっています。
 また近年は、従業員や取引先などを重視してきた企業観が変わり、「会社は株主のもの」という欧米の考え方が浸透しつつあります。
 このため、株主に利益をもたらす買収ならば、前向きに検討する株主が増えていることが買収の広がる土壌になっています。
 一方、会社分割制度を創設した商法改正などの法整備も買収を後押ししたといえます。

Q 今後は、敵対的買収への備えが欠かせないね。

A
その通りです。5月に施行された会社法は、企業買収へのハードルを低くする一方、さまざまな買収防衛策も盛り込んでおり、6月にピークを迎えた株主総会では、新株予約権などを用いた買収防衛策を導入する企業が相次ぎました。
 今後は、各企業とも、国内外からの敵対的買収を意識した緊張感のある経営が強いられることになります。


公明新聞記事(H18. 8. 28)より転載