経済教室NO.16村上ファンド事件

Q 「村上ファンド」の村上世彰・前代表が、東京地検特捜部に逮捕されたが。

A
村上容疑者は、2004年11月8日に、ライブドアがニッポン放送株を大量に取得する方針を決めたことを知った上で、翌9日から05年1月26日までの間に、同放送株約193万株を違法に買い付けた疑いです【グラフ】。

Q
どこが違法にあたるのか。

A
証券取引法は、公開株の5%以上の買い集めについて、「株式の公開買い付け(TOB)に準じる行為」と定めており、その情報を事前に知った者に、株式を購入することを禁じています。
 一部の人が、特定に地位や職務によって入手し得た情報を利用して、不当な収益を上げれば、公正な市場取引が成り立たないからです。
 村上容疑者の行為は、この規定への違反(インサイダー<内部者>取引)にあたるわけです。この間に不正購入した株式だけで、30億円以上利益を上げていたといわれています。

Q これ以外に、投資手法にも批判が集まっているが。

A
確かに、法律のすき間を突き、水面下で株式を買い集めたり、「村上ファンド」の名前につられて一般投資家が追随買いをした直後に、高値で売り抜ける手法に対して、単なる“サヤ取り屋”に過ぎないと批判する声がありました。
 一方で、わが国の企業経営にもたらした正の側面を、正当に評価する声もあります。


Q
というと?

A
保有資産を持て余し、株主の利益を損ねている企業に、経営効率化や増配などを要請するなど、一貫して企業価値向上を訴えてきたことや、そうした考え方がわが国でも次第に浸透してきたのは、“大きな功績”といえます。
 こうした「モノ言う株主」としての活動は、株式の相互持ち合いで、ぬるま湯的経営に慣れた企業経営者を目覚めさせ、コーポレート・ガバナンスに規律を与える効果があったといえるでしょう。
 東京証券取引所の西室泰三社長は、「経営者に株主価値向上を考える機会を与えた意味で貢献があった。株主として発言する習慣を日本でつくったのは功績」と一定の評価を与えています。こうしたことは、今後も引き継いでいく必要があります。

Q そうした行動する株主としての機能が、途中で変質したのは残念なことだ。

A 企業価値を向上させようとすれば、相手が大企業になればなるほど、経営に注文をつけてから実現するまで、ある程度の時間が必要となります。一方で、ファンドの投資家は短期間で多くのリターン(運用益)獲得を求めます。
 村上ファンドは、規模が拡大するにつれて、投資先が大企業中心に移っていき、企業価値向上と収益性という時間軸を異にする2つの目的間の矛盾が大きくなったため、結局、短期志向の強引な投資手法に傾いていかざるを得なかったのではないでしょうか。

Q
今回の出来事が、政策的に問いかけているものは何か。

A
ポイントは、公正な証券市場をどう形成し維持するのかという課題を突きつけたことです。
 公正な市場とは、一部の者だけが情報に接近できるのではなく、「情報の非対称性が存在せず、すべての市場参加者が同等の条件で情報にアクセスできる、透明な市場」にほかなりません。そのためには、情報開示をより充実させることが必要です。
 これに関連して、7日には、証券取引法を抜本改正する金融商品取引法が国会で成立しました。これまで対象外だった投資ファンドにも登録を義務化し、株式の大量取得の報告をより迅速に求めるなど、情報開示の拡充が図られます。

Q この事件をきっかけに、投資ファンドに負のイメージが強まれば、株主による企業へのガバナンスがトーンダウンしないか。

A
日本の金融構造は、間接金融から直接金融へ移行しつつあり、かつてのメーンバンクが果たしていた企業統治の主役を、株主が担うことが必要です。そうした中で、投資ファンドは、モノを言う株主として期待されていますし、事実、欧米には経営に注文をつける多くのファンドがあります。
 確かに、今回の一件で、株主による企業統治が後退する懸念があり、そうなれば最も喜ぶのは、ぬるま湯に漬かっていた経営者なのです。

公明新聞記事(H18. 6. 12)より転載