経済教室NO.12賃金 増加傾向が定着

Q 今回の春闘では、労働側に明るい兆しが見えたようだが。

A 先月15日に、金属労協(IMF・JC)加盟の4業種(自動車、電機、鉄鋼、造船重機)の大手労働組合に対し、経営側が賃金引き上げと一時金(ボーナス)に関する一斉回答を行いました。
 この中で業績が好調なトヨタ自動車は、ベースアップ相当分1000円を含む7900円の要求に対し、満額を回答。一時金も年間237万円の要求を満額受け入れました。日産自動車でも一人当たり7000円の賃金改定原資引き上げという要求に満額回答、1000円の賃上げ要求が出されていたホンダは600円を回答しました。
 また、薄型テレビなどの売れ行きが良好な電機業界でも、富士通と富士通ゼネラルが1000円、日立製作所、東芝、松下電器産業、NEC、三菱電機、シャープが500円の賃上げを回答しています。このように、これまでは一時金のみで対応し、勤続年数などで自動的に上がる定期昇給を除いては、賃上げを認めなかった経営側が、今年は業績によって容認する姿勢に転換したため、自動車、電機を中心に5年ぶりにベアを含めた賃上げが復活しました。

Q 組合側が一時金ではなく賃上げにこだわったのはなぜか。

A 一時金は常に決まった額ではなく、業績などに応じて支給額が変動します。これに対して、月例の賃金はいったん決まれば額が保証される上、退職金や時間外手当、ボーナスもこれに連動しているため、労働側にとっては引き上げのメリットが大きいといえます。
 一方、経営側にとっては、厳しい国際競争が続く中で固定的な人件費のコスト上昇は避けたいという意識が強く、ここ数年はベアによる賃金引き上げを凍結し、一時金の額を上積みする形で組合との交渉を進めてきました。
 今年の春闘では久しぶりにベアを含めた賃上げが実現しましたが、従来のように全労働者に対して一律に賃金の底上げをするのではなく、賃金に回す原資の総額を増やす「賃金改善」という形を取った企業も増えています。この場合、特定の年齢層に限って賃金を引き上げるなどの配分も考えられます。すでに日本の企業でも、従来の年功序列型の賃金制度に代わって成果主義が広く導入されており、一律の賃上げは難しくなっています。

Q 賃金の増加は経済にどのような影響をもたらすのか。

A 不況の影響で企業が支払う賃金の額はここ数年、減少が続いてきました。しかし昨年あたりから回復傾向が見られるようになり、その流れは大企業だけでなく、中小や地方の企業にも広がりをみせています。
 賃金が増えて家計にゆとりができれば、財布のひもが緩み、個人消費が拡大します。GDP(国内総生産)の50%以上を占める個人消費は景気回復の大きなけん引力ですが、今回の景気回復局面では、企業業績が改善しても賃金への波及が遅れたため、個人消費の伸びは小規模にとどまってきました。
 ここへきて、賃金の増加や雇用情勢の改善傾向が強まったことで、個人消費の本格的な拡大が期待されます。これまで輸出に頼るところもあった景気回復も、内需が伸びれば足取りが一層強まることになります。賃金の増加は、消費拡大、景気のさらなる回復という好循環をもたらします。

Q 景気回復や賃上げといっても、恩恵を受けていない人も多いのでは。

A 今年の春闘の妥結額を見ると、同じ業界の大手組合であっても賃上げ額がまちまちであったり、中には定昇すら要求できない組合もあるなど、企業によって結果が大きく異なっています。これまでの一律横並びが崩れ、格差が明確になったことが大きな特徴です。
 さらに、企業が正規の従業員の比率を減らす中で、日本の労働者の3割を占めるパートや派遣社員など非正規の従業員の待遇格差も深刻な問題です。パート従業員の平均賃金は正社員の半分程度である上、退職金や休暇制度などの整備も進んでいません。組合も最近ではパート従業員の加入を積極的に行おうとしていますが、加入率は3%にすぎず、春闘の恩恵を受ける人も限られています。
 こうした格差を是正していくために、今後も引き続き景気の持続的な回復が欠かせないとともに、労使双方に新たな努力が求められています。

公明新聞記事(H18. 5. 1)より転載