経済教室NO.10人材が経済成長を決める

Q 人材の育成を通じ経済成長を実現するべきだ、という考えが強くなっているが。

A 知識社会でグローバルな経済競争を勝ち抜くには、製品・サービスのイノベーションや、高付加価値化を進めることが不可欠です。これらを生み出すのが、高度な技術や知識を持った人材にほかなりません。 
 それだけではありません。経済成長を続けていくには、「資本の増加」「労働力の増加」「生産性の上昇」の3条件が必要ですが、わが国ではすでに生産年齢人口の減少が始まっています。この負の側面を克服するには、人材を育て能力を向上させることによって、イノベーションを起こし、需要を喚起していくことが重要なのです。

Q しかし実際には、企業での職業能力の開発は、課題を抱えていると聞くし、教育でも学力低下や理数系離れなどの気になる動きが目立つ。

A そうですね。経済が長期低迷を続ける間に、企業による人的投資は大きく減少してしまいました。労働費用に占める教育訓練費の割合は1988年には0.38%でしたが、2002年には0.28%に、金額にして約1000億円も落ち込んでいます【グラフ】。
 わが国の企業は、企業内訓練(OJT)によって、雇用者の育成に努めてきましたので、将来が憂慮される状況です。


Q それはなぜか?

A 景気悪化を乗り切るために、新規採用の停止や人件費の圧縮をしたからです。しかし、こうした対応は、短期的な業績改善には役立っても、中長期的な競争力強化にはマイナスです。
 例えば、大竹文雄・大阪大学教授らの実証分析では、<職場での人員削減のため、人材育成に時間をかけるゆとりや、部下や後輩を育成しようという雰囲気がなくなり、能力開発機会の減少は労働意欲の減退につながる>という結果が出ています。
 また、就職氷河時代に採用された若い世代は、同期生の数が少ないために長時間労働を強いられており、職業能力開発の意欲はあっても時間的余裕がないという調査結果もあります。

Q 「失われた10年」の影響が雇用削減という量だけでなく、雇用者の能力などの質的な問題にも及んでいるわけだね。こうした現状に対して、政府はどのような手を打ってきたのか。

A 戦後、政府の雇用政策は、もっぱら景気対策に焦点が当てられてきました。景気が悪くなれば、公共事業を増やして雇用を確保するという考え方です。個人の職業能力開発への関心はあまり高くなく、企業任せにしてきたといえます。
 しかし、経済構造が大きく変わる時代を乗り切るためには、職業能力開発や教育の充実が欠かせません。こうした認識のもとに、国際的には人材開発競争が活発化しているのが実態です。日本では、最近になってようやく職業能力開発重視へと政策転換が図られつつあります。

Q 諸外国の政府は、どのような取り組みをしているのか。

A 近年、特に若年者対策に力を入れているのはアジア諸国です。90年代後半の経済危機を契機に、失業者の雇用だけでなく、国際競争にも対応できることを目指し、能力開発政策を強化しています。教育訓練を受けた後に雇用するという分離型から、企業に雇用された訓練生として教育や職業訓練を受ける融合型への変化が見られます。
 また、訓練の成果として公的資格の取得を目的としています。英国の「モダン・アプレンティス制度」やドイツの「デュアル・システム」に倣ったものといえます。

Q 職業能力開発といえば、ニート(就業、就学、訓練のいずれにも参加していない若者)対策にとっても重要だね。

A ニートの問題は、職業上の知識・技術を身につけるべき若い時期を無為に過ごしてしまうことです。年をとるにつれ就職はより困難となり、不利な境遇から脱出できなくなってしまいます。人的資源の損出だけでなく、福祉費用増など国の財政にも影響します。
 したがって、何よりも職業教育訓練を通し就業能力を高める政策が求められます。若年層における「格差」の進行に歯止めをかけるためにも重要です。英国では、ブレア政権の手で、若年層に職業訓練を重点的に提供する「若年失業者ニューディール政策」が大きな成果を挙げています。

Q わが国でも、人材育成に本腰を入れた取り組みが急がれるね。

A 職業能力開発の重要性については、ようやく関心が高まってきましたし、学力低下を憂慮する声も広がってきました。昨年5月、厚生労働省の研究会が「人材への投資を強化し、成長を実現するべき」とした報告書を出したのをはじめ、経済財政諮問会議でも、新たな成長戦略に関し、「競争力は人がつくる」と、人材育成に力を入れることを検討しています。ただ人材育成は効果が表れるには時間がかかりますので、できるだけ早く始めることが大切です。

公明新聞記事(H18. 4. 17)より転載