経済教室NO.27みずほ証券の株誤発注問題

Q 証券会社による株式の売り注文のミスが、なぜこれほどの騒動になったのか。

A 今回の問題の発端は8日にみずほ証券が、新興企業を対象とした東証マザーズに上場した人材派遣会社の「ジェイコム」(本社・大阪市)の株式の売り注文の入力を誤ったことにあります。みずほ証券は本来、「61万円で1株」という売り注文を「1円で61万株」と打ち込んでしまったのです。この誤発注が行われたのは午前9時27分のこと。みずほ証券の担当者はすぐにミスに気付き、4回にわたって取り消し注文を出しましたが、東証のシステムに拒否され、取り消すことができませんでした。
 誤発注とほぼ同時に、ジェイコム株は1株67万2000円で初値が付きましたが、1万4500株の発行済み株式の42倍にも当たる売り注文が出されたことから価格が急落、9時30分には値幅制限の下限である57万2000円まで下落し、ストップ安となりました。
 誤発注の取り消しに失敗したみずほ証券は、今度は市場取引で買い戻しを試みましたが、発行済み株数を大幅に超える売り注文という異常な事態に、市場関係者の間には誤発注があったとの観測が瞬く間に拡大。インターネットの掲示板などを通じて個人投資家にも情報が広がり、買い注文が殺到しました。このためジェイコム株は一転して急騰、9時43分には77万2000円でストップ高となり、その後は売買が成立しませんでした。
 結局、みずほ証券は約47万株を直ちに買い戻したものの、残り約14万株は他の投資家に買われていました。誤発注からわずか16分間の出来事です。


Q 実際には存在しない株を大量に売ったことになるが、どんな収拾策がとられたのか。

A みずほ証券はジェイコム株の売却から4営業日目に当たる13日に、買い手に株券を渡さなくてはなりませんでした。みずほ証券は、誤発注直後に買い戻した41万株に加え、さらに買い増しを続けたものの、約9万6000株は投資家に渡ったままでした。これらの買い手に実際の株券を手渡すことは不可能で、そのまま13日の決済日を迎えれば混乱が拡大する恐れがありました。このため、東証と株式の清算業務を行う日本証券クリアリング機構は、約9万6000株について、株券の代わりに現金で強制的に決済するという収拾策を講じました。
 こうした特例措置は、機構が天災や相場環境の激変が生じた際に、講じることができると定めているもので、発動は1950年に旭硝子の株をめぐる取引が過熱した時に実施されて以来、55年ぶりのことです。
 決済価格は1株当たり一律91万2000円で、ここから購入代金を差し引いた額を機構が証券会社を通じて、ジェイコム株を購入した買い手の口座に強制的に振り込む形で行われました。1株を60万円で購入した投資家なら、税金や手数料を別として31万2000円の利益を得たことになります。
 また、8日に、みずほ証券以外でジェイコム株の売却を取り次いだ証券会社に対しても現金で決済が行われました。91万2000円という価格は、8日の誤発注直前に、この値段で売り、買いの注文がだされていたため、誤発注がなければ売買が成立したと思われる値として決められたものです。
 決済価格の総額は878億円で、みずほ証券はここから買い手の購入代金を差し引いた額を機構に支払うことになりました。8日に約50万株を買い戻した際の損失と合わせて、みずほ証券は400億円を超える損失を被りました。
 一方、ジェイコム株を購入して利益を上げた買い手のうち、大口取得者となった証券会社の多くは、今回の取引で得た利益を全額返上する方針を示しています。


Q しかし、明らかに異常な売り注文が、なぜチェックされなかったのか。

A みずほ証券が1円で61万株という誤った売り注文を出した際、入力画面には警告表示が出ましたが、担当者はこれを無視して操作したことが明らかになっています。さらに、誤発注に気付いた担当者が取り消し注文を出したににもかかわらず受け付けられなかったのは、東証のシステムの不具合が原因であったことも判明しました。取り消し注文が正常に受け付けられていれば、みずほ証券の損失は6億円程度で済んだともいわれており、今後、東証との間で損失をどのように負担し合うかが課題となります。
 株式市場全体を揺るがした今回の誤発注は、初歩的なミスが第一原因であったものの、市場のシステムがこれをカバーできなかったばかりか、さらに混乱を拡大してしまったことに大きな問題があります。東証は11月1日にも大規模なシステム障害を起こして全銘柄の取引が不能になる事態を引き起こしています。相次ぐトラブルやミスで高まった投資家の不安を解消するために、市場のシステム全体にわたる抜本的な見直しが迫られています。

公明新聞記事(H17. 12. 19)より転載