経済教室NO.22デフレ脱却 射程内に

Q 消費者物価の上昇は、日本経済の長期の懸案だったが。

A 消費者物価指数(生鮮食品を除く)は、2000年(暦年)を100とした場合、1997年度の100.6をピークに低下が続き、04年度の97.8まで7年連続で下落しています。今回の展望リポートでは、今年度の消費者物価指数の前年度比伸び率を中央値でプラス0.1%とし、8年ぶりの上昇を想定しています。
 展望リポートは日銀が日本経済の先行きを予測して年2回(4月と10月)に発表するもので、政策委員9人の予測のうち上から5番目の値を中央値として示しています。
 今月4月のリポートでは今年度の消費者物価指数の伸び率をマイナス0.1%、06年度はプラス0.3%と予測していたので、今回はいずれも0.2ポイント上方修正したことになります。今回のリポートでは、物価を押し下げる働きをしてきた米価下落や電気・電話料金引き下げなどの特殊要因が年末にかけて解消していく中で、消費者物価の前年度比が「0%ないし若干のプラスに転じていく」と予想。その後も需給ギャップが緩やかな改善を続け、前年比プラス基調が定着していくとしています。


Q 日銀は消費者物価の上昇を予測するにあたって、今後の経済情勢をどのように見ているのか。

A 今回のリポートでは、今年度後半から06年度にかけて、日本経済は息の長い成長を続けるとしています。その背景として、@海外経済が引き続き拡大し、輸出が増加を続けるA企業部門の好調が続き、設備投資が引き続き増加するB企業部門の好調さが家計部門にも波及しつつあり、個人消費が着実に回復し続けるC緩和的な金融環境で金融機関の貸出態度が積極化し、企業の資金繰りが大幅に改善する―といったことを想定しています。
 たしかに最近の日本経済は、大企業を中心に企業収益が大幅に改善、設備投資の拡大に加え、賃金の上昇や雇用の拡大にもつながり、景気の好循環が生まれています。
 8月に政府が「景気は踊り場を脱した」と宣言し、さらに今回、日銀が消費者物価の上昇予測を発表をしたことも手伝い、株価は今月4日に約4年半ぶりに1万4000円台を回復。国内総生産(GDP)は昨年10−12月期以来、4期連続でプラス成長を記録しています。個人消費も徐々に回復傾向を見せつつあり、こうした要因が、次第に物価の上昇傾向を生み出そうとしています。これまで長期にわたって日本経済に影を落としてきたデフレ経済からの脱却がいよいよ現実味を帯びてきたといえます。


Q 消費者物価が上昇となれば、金融政策の見直しが焦点になるが。

A 日銀はデフレ対策の一環として、01年3月から金融調節の指標をそれまでの「金利」から「資金量」に変更、市場に豊富な資金供給を行う量的緩和策を実施しています。量的緩和策は、具体的には金融機関が日銀に持っている当座預金の口座に日銀が資金を供給する形で行われていますが、最近は景気の回復、金融不安の解消などによって金融機関が必要以上の資金を手元に確保する意味が薄れ、金融機関の資金需要が低下していることから、政策の見直しが取りざたされてきました。
 日銀は量的緩和を解除する条件として、消費者物価の上昇率が安定的に0%以上になることなどを挙げています。上昇率が今年度プラスに転じ、それ以降もプラス基調が定着するとした今回の予測内容からすれば、量的緩和策の解除は必然的に検討対象に上ることになります。
 今回のリポートで日銀は、「経済・物価見通しが実現することを前提とすると、現在の金融政策の枠組みを変更する可能性は、06年度にかけて高まっていくとみられる」とし、量的緩和策の解除に積極的な姿勢を示しています。


Q 政府・与党内には、慎重な見方も強いようだが。

A デフレ脱却への明るい見通しを示す日銀に対して、政府・与党内からは、今年度から消費者物価が上昇に転じるとしても原油価格高騰の影響が大きく、デフレを本当に脱却したとは言えないといった指摘や、足元の景気対策をしっかり進めていくことが先決だといった意見が出されています。
 これは、拙速に量的緩和策を解除した場合、長期金利の上昇を招いて景気に悪影響を及ぼしたり、国債の金利負担増加で国の財政が逼迫するなどの懸念があるためです。また、経済の今後の見通しについても、原油価格の推移や、米国を中心とする国際経済の動向などで不確定要素が大きく、日本の経済成長が長期的に続くかどうかも予測しづらいといった見方もあります。
 実際に2000年8月、日銀が「デフレ懸念の払拭が展望できる」としてゼロ金利政策の解除に踏み切ったものの、その後、経済情勢が悪化し、逆にデフレが深刻化したという事実もあります。金融政策の変更にあたっては、国の財政状況なども含めた総合的見地から、慎重な判断を下すことが求められます。

公明新聞記事(H17. 11. 14)より転載