経済教室NO.11米国経済に不透明感

スタグフレーションの兆候か?
 4月18日付ニューヨーク・タイムズ紙に掲載されたクルーグマン・プリンストン大教授のコラムが波紋を呼びました。「(1970年代に席捲した)スタグフレーションが再び起こらないか」と問い掛けた教授は、最近のインフレ傾向と見掛けよりも悪い雇用情勢を問題視し、深刻なスタグフレーションに発展する懸念を指摘。原油高や住宅バブル破裂など、さまざまなことがきっかけになり得ると警告しました。
 FRBが先月20日に発表した地区連銀経済報告(ベージュブック)も、インフレに対する警戒姿勢を強める一方で、景気の下振れリスクについても注視する方針を示し、スタグフレーションを視野に入れていることを示唆しています。
 これまで、低インフレのもとで好調さを持続させてきた米国経済に、先行き懸念が台頭してきました。原因の一つは、昨年来続く原油高だけではなく物価全体に上昇圧力が強まってきたこと。もう一つは景気減速への懸念も高まってきたからです。不況とインフレが同時発生するスタグフレーションを回避できるのか、金融政策は難しい局面を迎えたといえます。
 米国経済は、3月にソフトパッチ(軟弱局面)に入ったといわれています。原油価格が過去最高値を更新したことで、景気の先行き懸念が高まり、個人消費などが鈍化したためです。
 
GDPは2年ぶりの低い伸び率
 4月28日に発表された1〜3月期の国内総生産(GDP)は、実質成長率が3.1%にとどまり、2年ぶりの低成長率となりました【グラフ1参照】。
 それを象徴するかのように発生したのが、米国を代表する自動車会社、ゼネラル・モーターズとフォードも経営不振と、それに伴う株式相場の下落、いわゆる「GMショック」でした。両社の経営悪化の影響は、関連企業にも広がっており、景気を一段と減速させるという予測もあります。拡大基調で推移してきた企業の設備投資も、3月にブレーキがかかり大きく落ち込み、4月に入ってさらに意欲が失われていると指摘されています。
 一方、物価の動向では、原油高やドル安を背景に、上昇圧力が高まっており、2月にFRBが示したインフレ見通しを超える可能性が高まっています。特に注目されるのは、エネルギーや食料を除く消費者物価(コアCPI)の上振れが目立ってきたことで、前月比のコアCPIの伸びは、3月には0.35%と大きく上昇しました【グラフ2参照】。企業が生産コストの増加を製品価格に転嫁する動きが広がってきたためです。

シナリオ通りの金利上げに疑問
 FRBは5月3日の公開市場委員会(FOMC)で、短期金融指標のフェデラルファンド(FF)金利の誘導目標を0.25%引き上げ、年3%とする決定をしました。声明では、インフレに警戒感を示す一方で、景気の減速にも配慮し、今後も慎重に金融引き締めを続ける方針を表明しました。
 これまでFRBが取り組んできたのが、ITバブル崩壊後にデフレ防止のため実施した金融緩和政策による世界的な過剰流動性(カネ余り)の処理。このため、景気に中立な4%前後の金利水準めざし、小幅な金利引き上げを継続すると予測されています。
 しかし、シナリオ通りにいくか、不透明さが増しています。インフレを抑え込むため金利を引き上げれば、変調の兆しを見せている景気に悪影響を与えかねず、景気に配慮して金利を下げれば、インフレを加速させかねないからです。
 このため、景気やインフレに関する経済指標の見方が重要ですが、ただ、3月に悪化した雇用や個人消費が4月に入り大幅に好転するなど、分かりにくい展開になっています。しばらくは、コアCPIや雇用者数の動向を慎重に見極めながらの、神経質な金融政策運営が続きそうです。
 そんな中、18年にわたり金融政策のかじ取りを担い、評価の高いグリーンスパンFRB議長が、来年1月退任する意向を表明しました。すでに後任人事に関心が移っていますが、金融政策への影響も注視していく必要があります。

公明新聞記事(H17. 5. 23)より転載