経済教室NO.4金融の量的緩和策・難しい局面に

Q 札割れとは、どのような事態をいうのか。

A 日銀は、金融機関が保有している国債や手形を買い入れたり、逆に金融機関に売却したりして、市場の資金量を調節しています。これは公開市場操作(オペレーション)と呼ばれています。
 現在、日銀はデフレ対策として、資金を潤沢に市場に供給する量的緩和策をとっており、毎日、金融機関から国債や手形を購入し、その代金を金融機関が日銀に持っている当座預金の口座に支払う形で、資金の供給を行っています。しかし、最近ではよく、日銀が国債や手形を買い入れる「買いオペ」を実施しても、金融機関の応札が日銀の目標額に達しないことがあります。これが札割れです。

Q 札割れがおきる原因は何か。

A ひと言で言えば、金融機関に資金が豊富に行き渡っていて、これ以上、余剰資金を必要としなくなっているということです。
 日銀は2001年3月に、金融調節の指標をそれまでの「金利」から、金融機関が日銀に預けている当座預金の残高、すなわち「資金量」に変更しました。これが量的緩和策といわれるもので、日銀当座預金残高の目標額を定め、これに従って金融調節が行われることになりました。日銀当座預金は、金融機関が他の金融機関や日銀、国と取引する際の決済手段になっていますから、その残高は刻々と変動します。このため、日銀は残高が目標額の範囲内に達するよう、毎日、オペレーションなどの手段を通じて、資金を供給しているのです。
 当座預金残高の目標値は当初「5兆円程度」と定めれれましたが、デフレの深刻化や株価の下落、金融不安の増大などに対応して、その後9回にわたって増額され、昨年1月以降は、「30―35兆円程度」となっています。
 金融機関は、預金者への支払いなどに備えて、預金の一定比率以上の額を日銀当座預金に預けることが義務付けられていますが、それを超える資金は、自由に使えることになっています。日銀当座預金は利息が付かないので、預金残高を増やせば、金融機関は日銀当座預金から資金を引き出して、利益を生む企業への貸し出しや証券の購入などに充て、これによって経済活動が活性化することが期待されるのです。
 ところが、最近は景気が回復傾向にあり、不良債権処理も進んで金融不安が遠のいたことから、金融機関は必要以上の資金を手元に確保する必要がなくなり、日銀が資金を供給しようとしても、需要が減って、札割れが生じているわけです。
 一方、国民経済においても、低金利のために年金生活者や預金者が長期にわたって不利益をこうむったり、大都市部で土地バブルの懸念が生じるなど、量的緩和のマイナス効果を指摘する声も広がっています。

Q では日銀は、当座預金残高目標の引き下げなど、政策の見直しに踏み切るのか。

A そこは大変難しい問題です。
金融機関が日銀から資金を調達する必要性が低下していることは確かですが、安易に当座金残高の目標を引き下げれば、日銀が金融の量的緩和から引き締めへと政策転換に踏み切ったという見方が市場に広がる恐れがあります。それによって、長期金利が上昇すれば、国債が値下がりし、大量の国債を保有している金融機関は多額の含み損を抱えることになりかねません。当然、企業活動への悪影響も避けられず、景気回復の大きな妨げとなってしまいます。
 もともと、量的緩和策を導入した際に、消費者物価の前年度比上昇率が安定的に0%以上となるまでは継続するとの方針が明記されています。改善に向っているとはいえ、依然として消費者物価が下落を続け、デフレが解消されない現状では、量的緩和策の転換や、そうした憶測を呼ぶような政策を実施することは適切ではないでしょう。
 こうしたことを踏まえ、日銀の金融政策を決定する審議委員の間では、量的緩和策を堅持しつつ、日銀当座預金の残高が一時的に目標値を下回ることは容認するなど、金融調節を弾力的に運用しようとの考え方も出されています。

Q 日銀ではどのような協議が行われているの。

A 今月16、17の両日開かれた日銀の政策委員会・金融政策決定会合では、先行きの政策運営について、当座預金残高目標の引き下げや、残高が目標値を一時的に割り込むことを容認してはどうかとの意見が出されたものの、当面の運営については、現在の30〜35兆円程度という当座預金残高目標を維持することで全員が一致しました。
 これは、4月にペイオフ(金融機関が破たんした場合の預金払戻保証額を元本1000万円とその利息までとする措置)の全面解禁を控えていることや、昨年10―12月期の実質国内総生産(GDP)が3四半期連続でマイナスとなるなど、景気回復の踊り場状態が続いていることから、景気に悪影響を及ぼしかねない政策変更は避けるべきと判断されたためです。
 しかし、福井俊彦日銀総裁もペイオフ解禁後には、残高目標の引き下げなどの必要性を検討するとの考えを示唆しており、今後も景気の動向を慎重ににらみながら、どのような政策決定を下していくのか、わが国の金融政策は引き続き難しい局面が続きそうです。

              
公明新聞記事(H17. 2. 28)より転載