経済教室NO.6回復に向かう潜在成長率

Q 潜在成長率というのは、どのような指標なのか。

A 潜在成長率とは、インフレやデフレを起こすことなしに、中長期的に持続可能な潜在的な国内総生産(GDP)の伸び率のことで、具体的には「労働力」と生産に必要な工場、機械設備などの「資本」、それらの利用効率である「生産性」(TFP)の3つの要素から推計されます。
 つまり、労働力や資本をフルに活用した場合に達成できるGDPのことであり、供給の面からみた、一国の経済の実力を示しています。
 景気の循環の過程で、短期的には潜在成長率を超えた成長も可能ですが、これではインフレを引き起こすことになり、長く持続することはできません。潜在成長率は、あくまで中長期にわたって持続可能な「経済の巡航速度」というべきものです。

90年代半ばに1%台へ低下
Q 日本の潜在成長率は近年、どのように推移しているのか。

A 日本の潜在成長率は1990年の4.49%など、バブル経済の時期には4%台の高い水準を維持していました。
 しかし、バブル崩壊以後は工場の設備投資などの資本投入の減少や生産性の低下に加えて労働力の減少も進み、90年代半ば以降は1%台まで低下、2002年には1.03%まで落ち込みました。その後、景気の回復傾向とともに昨年、ようやく上昇に転換し、今年上半期は1.20%(年率換算)と、ほぼ5年前の水準まで回復しました。
 <グラフ>は90年から今年上半期までの潜在成長率の推移とTFP(生産性)、労働力、資本の3つの要素の寄与度を示したものですが、労働力は少子高齢化などによる労働力人口の減少や労働時間の短縮などにより、91年以降、寄与度はマイナスとなっており、潜在成長率の押し下げ要因となっています。
 また、資本についても最近は企業の設備投資が盛んになっているものの、古くなった設備を廃棄する動きも依然として根強く、伸び率は増加していません。これに対して、生産性は98年以降、上昇を続けており、今回顕著となった潜在成長率の下げ止まり傾向は、技術の進歩や生産効率アップなど、生産性の向上によるところが大きいことがわかります。

Q 潜在GDPと実際のGDPとは、どのような関係にあるのか。

A 潜在GDPが、その時点での経済全体の総供給力であれば、実際のGDPは、その時点での総需要を示している
と言えます。したがって、潜在GDPと実際のGDPとの格差は、経済の需要と供給の格差を表しており、「GDPギャップ」あるいは「需給ギャップ」などと呼ばれています。
 実際のGDPが潜在GDPを下回った場合、GDPギャップはマイナスとなり、経済が需要不足(供給過剰)状態であることを示します。
 近年の日本のGDPギャップの推移を見ると、93年ころからマイナス傾向となり、02年1―3月期にはマイナス5.19%まで拡大、深刻な需要不足に陥り、大きなデフレ圧力が生じました。
 しかし、03年10―12月期以降はギャップが大幅に縮小し、内閣府の試算では今年4―6月期はマイナス0.5%まで改善しました。GDPギャップがゼロに近づいたのは、ほぼ7年ぶりのことで、景気の回復、過剰設備の廃棄などによって、需要不足はほぼ解消したとの見方が広がっています。

消費者物価は値下がり続く

Q 日本経済はようやくデフレから脱却できるということか。

A たしかにGDPギャップが改善したことで、デフレ圧力が弱まってきたことがわかります。ただ、消費者物価指数は一時に比べれば率が小さくなったものの、依然として下落が続いており、デフレの傾向が根強く続いていることも事実です。
 最近の消費者物価の状況を見ると、世界的な原油価格の高騰に伴って、ガソリンの店頭価格が大きく値上がりしているものの、依然としてパソコンなど耐久消費財の値下がりや、中国をはじめ海外からの安い製品の輸入拡大といった影響が大きく、簡単に上昇に転じる状態にはありません。
 また、個人消費をはじめとする需要の伸びがまだ弱いことや、銀行の貸出額が引き続き低水準にとどまっていることもあり、政府も緩やかな物価上昇が継続し、デフレから脱却するまでには、まだ時間がかかるとの見方をしています。
 むしろ、景気が上向きになり、デフレ圧力が緩和してきた今こそ、政府、日銀が緊密に連携しつつ、金融政策を含めてデフレ克服に向けた実効性のある対策を引き続き講じていくことが、極めて重要だといえます。

              
公明新聞記事(H16. 10. 4)より転載